PUNKSPRING2023

MY CHEMICAL ROMANCE

それまでシンガーソングライターとかユニットとか、そういった枠組みを考えたことがなかった私が、初めて「バンド」を意識して好きになったアーティストである。マイケミがいなかったらバンドというものにハマっていなかったかもしれないし、実際にバンドをしていなかったかもしれない。

 

小学校3年生くらいのとき、FM802でよく流れていたのがマイケミの"Welcome to the Black Parade"だった。
その際は好きな曲の1つ、という認識だったが、中学生になり"Black Parade"のアルバムを聞くようになってから、どハマリするようになる。youtubeで何度も何度も"Welcome To The Black Parade"や"Helena"や"Famous Last Word"をリピートし、他に同じようなバンドがないか探しては落胆し、そのゴシック感とボーカルのジェラルドの泣き出しそうな声の唯一無二性にとりこになった。当時死に近い生活を送っていた私にとって、彼らは私のヒーローに他ならなかった。「大学に入ったら絶対お金をためて、アメリカまでライブを見に行くのだ」と決めていた。


マイケミが活動を休止したのは、私が大学に入る直前の、高校3年生のときだった。


大学に入ってマイケミコピーバンドをしたり、マイケミが好きな友人もできたが、人生における夢の1つが失われ、大きな悔いとなって心の中に残っていた。

 

それが、である。

大学卒業後2年目に再結成、来日公演の決定、そこからコロナ禍での延期、またそこから2年後の2023年3月26日。PUNKSPRING2023。
ついに私は夢を叶えることができたのだ。

 


前置きが非常に長くなったが、これはPUNKSPRING2023のレポートである。

マイケミだけでなく、Simple planBad Religionのレポも含まれる。
日本のバンドも出ていたが、最後まで体力をもたせられる自信がなかったため、SimplePlanからの参戦とした。

 

会場につくと、海外からのお客さんが多いことに驚いた。少なく見積もっても3割はいる。
しかも、赤髪で全身真っ黒のエモガールがたくさんいた!バンドのボーカルか、海外のフェスの映像でしか見たことのない、古のエモガールである。マイケミ関係でいろんなエモバンドを聞いていた私としては、そこに興奮せずにはいられなかった。残念ながら前髪を流した目隠れエモボーイは絶滅してしまっていたが、黒革ジャンの正装に身を包んだ人は数え切れないほどいた。みんなだいたい30代前後に見え、同世代である。英語圏だけでなく、韓国・ベトナム・その他の東南アジア系の人々が多く来場し、同じくらいの年の人間が、マイケミを見るために世界中から集まっていた。

すでに感無量である。この日を待っていたのは私だけではなかったのだ。


日本勢最後のフォーリミが出番を終えると、仕切り直しといった形で802のDJのMCが始まった。
Simple Planを見るために、自分が割り当てられたブロックに向かった。私のブロックはB3で、前から2番目で真ん中のブロックだった。これならよく見える、と思ったが、前で座っていた観客が立った瞬間ステージの上が見えなくなった。
日本人の平均身長より随分と高い……。
なぜかB3ブロックは半分が外国人だった。日本語よりも別の言語のほうが聞こえる。
身長については仕方がない、音が聞ければ十分かなーと思っていたときだった。

 

"Do you have the time to listen to me whine
About NOTHING and EVERYTHING all at once"


突然場内にGREEN DAYのBasket Caseが流れ始めた。

瞬間、大歓声からの大合唱である。
ポップ・パンクの代表曲、パンクをメジャーにさせた筆頭。もちろん私も歌える。
一瞬で場内がパンクキッズで溢れかえった。


続いて、
THE OFFSPRING "The Kids Aren't Alright"
・Panic At The Disco "I Wrote Sins Not Tragedies"
Fall Out Boy "Sugar,We're Goin Down"


こんなものを聞かされて正気でいられるパンクキッズはいない。
気がついたら360度外国人の中で、一緒に英語でシンガロングしていた。
(周囲はネイティブだったので、なんちゃって英語ではないちゃんとした歌詞を歌っていて感動した)

GREEN DAY以外の3曲だが、この曲たちは私が中学校のときに読んだ「マイケミ好きにおすすめするバンド」の記事で紹介されていた記事のラインナップそのままだった。残念ながら当時の自分が求めていたようなものではなかったのだが、確かに当時聞いていたのだ。
FOBなんかは後々ドハマりしてコピーもしている。間違いなく名曲ぞろいである。
マイケミが始まる前から感動することが多すぎて、この時点ですでに泣きそうだった。

 

Simple Plan

Simple Planは特別好きだというバンドではない。しかし、パンク・エモを嗜んでいる人間であればどこかで必ず聞くことになるバンドである。嗜んでいなくても、この曲どこかで聞いたことある〜となるのがSimple Planである。

覚えている限りのセトリが↓


Shut up
Jump
Jet Lag
Welcome to my life
Summer Paradise
Sk8ter boy(アヴリルラヴィーンのカバー)

最後の2曲↓
I'm just a Kid
Perfect

ただ最高の一言だった。これぞポップ・パンク。キャッチーで乗りやすい。
最後の2曲連続でくるのは涙腺に優しくなかった。ひたすらに楽しかった。
アヴリル以外にもカバーをしていた曲があったと思うのだが、ちょっとわからなかったので割愛する。

MCで「Japanese Jokeをするぜ」と言ってからの「こーーんにーーちはーー!!」は落差が激しすぎてついていけなくて申し訳なかった。Simple Planと錦鯉が同じ世界線に存在することをなかなか認識できなくて……。


Bad Religion

大御所バンド。お恥ずかしながら、名前こそ聞いたことがあるがほとんど知らないバンドだったため、ライブ直前になって調べた。

なんとEpitaph Recordsの設立者だった。

お世話になりすぎていて頭が上がらない。OFFSPRING,NOFX,New Found Glory,Saosin,BMTH,Sleeping With Sirens,挙げ始めるときりがない。我々のようなパンク・エモ・ポストハードコア大好き人間はEpitaph Records,Rise Records,Fearless Recordsには足を向けて眠れないのだ。感謝してもしきれないほどの恩がある。

実際に生で聞いてみて、メロディアスなメロディラインに、私の好きなバンドに通ずるハードロック・パンク・ハードコア要素が感じられて、大変価値のあるライブだった。もう1980年から活動しているバンドのため、皆ほぼおじいちゃんだが、最高にクールだった。

 


そしてマイケミである。

 

MY CHEMICAL ROMANCE

転換が終わり、そろそろ始まるのではないかという雰囲気になった瞬間、隣にいた眉毛のないアジア系の女の子が泣き崩れた。
気持ちが溢れてしまった女の子を周囲の人間で慰め、「俺もこの日を待ってたんだよ、bro」と周囲の観客がそれぞれにグータッチをしあっているのを横で見ていて私も泣きそうになった。

メンバーが登場し、ついにフロントマンが現れた。
メンバーは驚くほど老けておらず、再結成時には長年の憧れが吹っ飛ぶくらいの中年太りをしていたジェラルドは、かつてに近い痩せた姿で現れた。
女性用のスカートスーツを着て、右顔面には爪痕のようなペイントを施し、ゾンビのような真っ白いカラーコンタクトをつけて、ステージ横の巨大なスクリーンにその姿が映し出された。

1曲目は再結成してからリリースされた"The Foundations Decay"。

興奮のために後ろから人が殺到し、押しつぶされそうになりながら、必死に背伸びをしてステージを見ようとした。
周囲のシンガロングの声が大きすぎて歌があまり聞こえず、どうしたものかと困っていると、斜め前にいた肌の白い海外から来たであろう女の人が場所を入れ替えてくれた。

そこでようやく前が開け、演奏を鮮明に聞くことができた。
初めて聞く生のジェラルドの声は、ずっと聞いていた憧れのヒーローの声そのものであった。

 

"Na Na Na","Thank you for the Venom","Boy Devision"と続き、
"I'm Not Okay"のイントロが流れた瞬間、こらえきれずに泣いてしまった。

youtu.be


コピーもした、Black paradeの次に好きな曲である。
ドラマティックな曲展開が大好きで、ラスサビの前の"Trust me"でもう一度泣いてしまった。


そこから数曲続き、数百回数千回と聞いたピアノのイントロが聞こえた。

 

youtu.be

その瞬間、死にたいと思っていたこととか、死のうと思ったタイミングのこととか、立ち直って人の愛を受け止められるようになったこととか、なんだかもういろんなものが報われた気がして、あふれる涙をこらえることができなかった。

"When I was a young boy.My father took me into the city to see a marching band"

周囲をちらっと見渡すとみんな泣いていた。
マーチングのドラムに合わせて、まずは一周一緒に歌い、ギターのリフが始まると、再度自分の心が揺さぶられるのを感じた。
静かなピアノ→マーチングのドラムに合わせる歌→泣きのギター→同じ歌詞で2周目をシンガロング→マーチングの終わりからテンポアップ→Aメロと繋がり、観客のテンションも最高潮で、シンガロングパートではない部分までずっと歌っていた。

それでもちゃんと私の耳にジェラルドの声は届いていて、憧れのボーカルとマイケミの演奏で歌えていることへの喜びでどうにかなりそうだった。

"I’m just a man, I’m not a hero
Just a boy, who had to sing this song
I’m just a man, I’m not a hero
I don’t care"


この曲で一番好きな1節である。
この1節を、1000人規模の人数で集まって歌えたことで、くすぶっていた自分の中の悔いが成仏したのを感じた。
死ぬことばかり考えていた自分が、ここまで生き続け、自分を支えてきた曲の一部となり誰かの思い出の1つになれたこと。こんなに嬉しいことはなかった。

 

この後も好きな曲が続いたのだが、もう最高以外の語彙が出てこないので、セットリストだけ記載してほかは割愛することにする。


The Foundation Of Decay
Na Na Na
Thank You For The Venom
Boy Division
I'm Not Okay(I Promise)
The Ghost of You
Bury Me In The Black
It's Not a Fasion Statement,it's a Deathwish
You Know What They Do To Guys Like Us In Prison
Welcome To The Black Parade
This Is How I Disappear
Everyone Hates The Eagles
The World Is Ugly
Give 'Em Hell,Kid
Teenagers
Mama
Helena
Famous Last Words
Sleep
Vampires Will Never Hurt You

 

最後までジェラルドはメッセージっぽい言葉を発することなく、終始「おえええええ」という本気で吐くような声だけ出していて、観客が戸惑っていた。
マイケミは日本が大好きだそうなのだが、ちゃんと日本を楽しんで帰れただろうか。
終演後、席をゆずってくれたお姉さんにもう一度お礼を言おうと思ったが、すでに姿はなかった。

 

 


婚姻届を出す2日前にこのライブが行われたことが、自分にとって大きな意味があるものだったように思う。
心の引っかかり、諦めていた1つの夢を果たすことができた。新しい人生のスタートを気持ちよく切れたと思う。
"Black Parade"のアルバムは、死をテーマに ”生きる意味” を描いたコンセプトアルバムである。
"Black Parade"を聞いて、死を四六時中意識していた自分が、今では生きることを意識しないほど生を楽しんでいる。とんでもない成長に笑ってしまう。
この日のことは誰かの記憶に残り続けるだろうし、私もこの日の思い出を胸に生き続けていくだろう。
死ぬ間際に今日のことを思い出すかはわからないが、お迎えの音楽はどうかBlack Paradeであってほしい。

ありがとうMY CHEMICAL ROMANCE